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鶴見線の旧型国電

- クモハ12052 -

鶴見線には長らく2輌の旧型国電が在籍していた。クモハ12052とクモハ12053である。
この2輌は同一形式の車輌で、元は17m車で片運転台のモハ31形を両運転台化改造した車歴を有する。
首都圏にありながら1996年まで延命できたのは、この17m車という規格が要因であった。
鶴見線には本線の他に3本の支線があり、この支線の乗客数は多くはなく1輌編成が適した環境にあった。
また、武蔵白石駅におけるプラットホームの急カーブは101系などの20m車では建築限界に抵触するため、進入できなかったのである。
17m車の新規開発の噂は何度かあったが、1996年に武蔵白石駅の大川支線ホームを廃止することで、この問題は解決することになる。

クモハ12052は2021年現在、車籍を有した状態で東京総合車両センターに保存されているため、いつかまた会える日が来るかもしれない。

2021年2月 記

鶴見線を単行運転するクモハ12052

鶴見線を単行運転するクモハ12052

1993.03.29. 鶴見小野駅にて


形式写真

クモハ12052

クモハ12052 2位側から

画像クリックで高解像度画像

クモハ12052

クモハ12052 4位側から

撮影:1993.03.29. 鶴見駅

クモハ12051〜054図面

クモハ12051〜054図面

このタイプは1982年当時で全4輌が国鉄に在籍していた。
両運転台で使い勝手が良かったためか、クモハ12051・クモハ12054は車輌区で牽引用に使用されていた。054はその後、佐久間レールパークで展示された。

クモハ12052

形式 クモハ12
自重:44.6t  換算:積 5.0 空 4.5
全検:大井工 平成5年1月 定員:104人
所属:東ナハ

座席:ロングシート 数:35席
台車:DT11
製造初年:昭和4年 改造年:昭和34年(両運転台化)
前形式:モハ31018 → モハ11210

クモハ12052

1位側から

 

クモハ12052

3位側から

戸袋窓の3位側端は躯体として埋め殺しになっている。


ディテール

クモハ12052

形式番号標記

クモハ12053の2−4位側の形式番号標記は客室の中央乗降扉より前位側であるのに対し、クモハ12052は後位側に記載されていた。

銘板

製造銘板

  • 更新修繕-II 汽車會車 昭和30年
  • 昭和四年 川崎車輌 製造
  • JR東日本

更新修繕-IIとは1951年の桜木町事故の教訓を踏まえ、絶縁工事を始めとする火災対策改造で、おそらくこのときに通風機がグローブ型に変更されたものと思われる。なお、グローブ型とは米国グローブ社製に由来する円盤形の通風機のことである。
また、残念なことに両運転台改造時の銘板は見当たらない。

クモハ12052後位側正面

後位側正面

車体形式には「クモハ12052」と何故か個体番号まで記載されていた。

鶴見線の支線の終点大川駅では正面からの撮影が可能であった。
写真右には日清製粉から出荷するためのホキが留置されている。この留置線も現在は撤去されてしまった。

クモハ12052側面

2-4位側側面

冷房設備を搭載していないクモハ12052は夏季は扇風機と窓の解放に頼ることになり、下段窓の外側に当初はなかった転落防止のための格子が施工されてしまった。
戸袋となる窓は固定のため格子が設置されていないことも見て取れる。

クモハ12052 リベット接合

リベット接合の車体

整然と配列するリベットが醸す造形美が旧型国電の魅力のひとつである。
ただ、筆者は未だにリベット接合を理解出来ていない。建築でいう間柱にそって配列するものと想像できるが、写真を見る限り車体の裾まで達していない箇所が多く見受けられる。どういう理屈に法って施工するのだろうか?

クモハ12052 DT11台車

DT11台車

DT11の特徴はイコライザーと呼ばれる弓形をした水平梁で、ここに大型のコイルばねが載る構造である。
DT12以降のコイルばねは小型化され軸箱上に収まる設計となる。
中央の板ばねの左右にある揺れ枕吊りもDT10より複雑化している。


車 内

クモハ12052車内

前位左側から後位を

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クモハ12052車内

前位右側から後位を

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クモハ12052シート

室内4位側の端のシート

幅900mmの2人掛けシートが、対面には1人掛けシートが設置されていた。
後位の乗務員助手席側と客室とはパイプのみで仕切られていたことが判る。

クモハ12052客室窓

客室窓

モハ30・31の特徴であった2連窓のデザインを色濃く残していた。
2連窓間の壁にも額縁状の意匠が見られる。
残念なことに、壁パネルの中央には「窓から顔や手を出さないで下さい」という過剰な注意書きが貼られていた。

クモハ12052室内

中央客室扉から室内前位方向を

網棚、手すり、窓枠などのデザインが絶妙であった。

その一方で、上段窓は固定。下段窓は窓枠のガイドレールにストッパーが施工され、窓の高さの半分までしか引き上げられない構造に変更。おまけに外側には格子が嵌められた。
このようにして90年代頃から社会は過剰とも思える安全対策を施す状況へ移行していった。

クモハ12052 座面下の金網

座面下の金網

暖房装置、非常用ドアコック、ドアエンジンなどはロングシートの座面下に格納されていた。
これらのカバーとなる金網のパターンもこの時代特有の表情がある。