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鶴見線の旧型国電

- クモハ12053 -

鶴見線には長らく2輌の旧型国電が在籍していた。クモハ12052とクモハ12053である。
種車はクモハ12052が昭和4年製造のモハ31018、クモハ12053は昭和6年製造のモハ31088で、これらモハ30・31系の制御電動車は戦後に形式統一され、モハ11へと集約された。
更新修繕を経て昭和34(1959)年に両運転台化改造され、クモハ12050〜となる。

2輌とも図面上は同一仕様であるが、手掛けの有無や位置をはじめ、細かな差異がある。これらを比較するのも面白い。

なお、クモハ12053は2006年に廃車、2010年に解体されている。


2021年2月 記

鶴見線を単行運転するクモハ12053

鶴見線を単行運転するクモハ12053

1993.06.06. 安善駅


形式写真

クモハ12053

クモハ12053 2位側から

クリックで高解像度画像

50mm単レンズおよびPLフィルターにるフイルム撮影、細部までフォーカスを合わせるため、絞りf22に設定し、それに対応すべく低速シャッターと当時の持てるスキルを注ぎ込んだ一枚である。 

クモハ12053

クモハ12053 4位側から

こちらが昭和34年に両運転台化に伴い増設された側で、幌座は残置された。

撮影:1993.06.04. 鶴見駅

クモハ12051〜054図面

クモハ12051〜054図面

このタイプは1982年当時で全4輌が国鉄に在籍していた。

17m車であるにも関わらず、重量が45tもあった。これは現在の車輌の1.5倍以上に当たる。

クモハ12053

形式 クモハ12
自重:44.6t  換算:積 5.0 空 4.5
全検:大井工 平成4年5月 定員:104人
所属:東ナハ

座席:ロングシート 数:35席
台車:DT11
製造年:昭和6年 改造年:昭和34年(両運転台化)
前形式:モハ31088 → モハ11256

クモハ12053

1位側から

クリックで高解像度画像

クモハ12053

3位側から

戸袋窓の3位側端は躯体として埋め殺しになっている。


ディテール

クモハ12053

形式番号標記

国鉄時代の標準書体で記載されていた形式番号。

クモハ12053 DT11台車

DT11台車

DT11の特徴はイコライザーと呼ばれる弓形をした水平梁で、ここに大型のコイルばねが載る構造である。
中央の逆ハの字の部材などが追加され、DT10より複雑化している。

DT10・DT11は17m級電動車のみが装備していた台車で、昭和7(1932)年に誕生する20m級電動車からは構造が大きく異なるDT12を履くことになる。
つまり、この表情をした台車は昭和一桁代製造の特有なものなのである。

なお、20m車はこれ以前にも付随車がモハ32系に存在していたが、恐らく車体重量と強度の問題なのだろう、国電黎明期の電動車は17mで設計されたのであった。

クモハ12053 DT11台車

台車詳細

車体から台車の心皿へ載る荷重は上揺れ枕 → 枕ばね(板ばね)→ 下揺れ枕 → 揺れ枕吊り → 台車枠側梁 → コイルばね → イコライザー → 軸受 → 車軸 と上下に行き来して車輪へ伝えている。

また、スポーク車輪であることも見て取れる。

写真左に写る「枕ばね(板ばね)」であるが、普段我々が目にしている手前に鋭角に突き出た形状は、菱形をした全体のうちの半分でしかなく、台車奥側に対象形が隠れていることを述べておきたい。


車 内

クモハ12053 車内

後位左側から前位を

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クモハ12053 車内

前位右側から後位を

あきらかに露出設定ミスなわけであるが、もう二度と撮ることが出来ない写真なので掲載。

クモハ12053車内照明

天井備品詳細

乳白色のガラスのシェードに白熱電球が収められている。剥き出しの蛍光灯よりも洒落た仕立てである。

クモハ12053 シート

室内4位側端のシート

幅900mmの2人掛けシートが、対面には1人掛けシートが設置されていた。
パイプ端部の留金は真鍮製で製造当時のものだろう。戦前は複雑な形状をした金具は真鍮で造作されていた。

クモハ12053最小ロングシート

室内3位側端の国電最小ロング?シート

増設された運転台により4人掛けロングシートが1人掛けに変更された。国電において最小のロング?シートであった。

クモハ12053客室から

客室から

対岸の鶴見つばさ橋を臨む。
現代では木製の床材は逆に高級な印象を与えてくれる。


鶴見線にて

鶴見線本線を行くクモハ12053

鶴見線本線を行く

本線の上空には鉄構と呼ばれる構造体で高電圧の送電線が並走して張られていた。
写真の右に写る巨大なタンクは現在は撤去されており、時代とともに工業地帯の風景も変わっていく。

浅野駅から

新芝浦

しんしばうら

新芝浦(浜)
SHIN-SHIBAURA
(神奈川県横浜市)
あさの/ASANO うみしばうら/UMI-SHIBAURA

鉄道省をはじめ国鉄では駅名は人名から引用しない原則があったが、浅野は浅野財閥の総帥浅野総一郎が開発したこの付近の埋立地、浅野埋立に由来する。 隣駅の「安善」も安田財閥の安田善次郎にちなみ、浅野総一郎が命名した駅名である。 

新芝浦駅のクモハ12053

新芝浦駅

 

鶴見つばさ橋

建設中の「鶴見つばさ橋」

終点、海芝浦駅プラットホームの柵の外は海である。
海面近くを一匹のアカクラゲが漂っていたのを覚えている。
対岸のコンビナートに建設中の斜張橋が目にとまった。
翌年竣工となる「鶴見つばさ橋」だと知ったのは数年後のことである。

海芝浦駅停車中のクモハ12053

海芝浦駅

特に観光地というわけでもないのだが、数人の物好きな乗客がいた。

海芝浦支線終端側からクモハ12053を

海芝浦支線終端側から

前面左下に掲げられた銘板が2枚しか装着されてないことは残念である。

  • 更新修繕-II 日本車輌 昭和30年
  • JR東日本